2009年3月5日木曜日

なぜ、政権交代前なのか、 結果的に悪政に加担する東京地検特捜部  青山貞一

 民主党小沢代表の公設第一秘書をいきなり逮捕した東京地検特捜部だが、国民が半世紀に及ぶ自民党のやりたい放題の悪政から、自らの手で総選挙により解放する「前夜」に、敢えて強制捜査に踏み切ったことに対し、多くの識者が疑問を呈している。

 たとえばO氏は、「今回の容疑は3年以上前の話で、なぜ今なのか違和感が残る。この時期の逮捕は国策捜査と言われかねない」と述べている。

 さらに政治評論家のY氏は、「国民にとっては悪夢のような展開です。自民党政権が続くということは、2大政党制がかけ声倒れに終わり、腐敗堕落による一党独裁が続くということです。消えた年金に象徴されるようなごまかし政治が続き、官僚機構がのさばり、一部の政治家と企業だけがいい思いをする癒着政治が続くことになる。ヘタをすればあと10年も暗黒政治がつづくことにもなりかねません」と述べる。 言うまでもなく東京地検による今回の一件により、国民の間にいまだかつてなく盛り上がっていた政権交代の機運は完全に冷水をかけられた。

 それでも罪は罪、罰は罰という人はいるだろう。また自民党やNHKはじめ大マスコミは「国民に対し政治とカネにまつわる政治家の信頼を失墜させたことは間違いない」などと、「したり顔」の論評はある。 また西松建設による政治家への資金のバラマキは国会議員、知事を含め数10人に及んでいるなか、なぜ小沢一郎だけなのかという問いかけに、東京検察特捜部は小沢陣営に渡った額が突出して大きいからなどと言っているようだ。

 しかし、小沢氏自身が3月4日朝の記者会見で述べているように、もし、あらかじめ企業からの献金であれば、「陸山会」でなく企業献金が認められている政党への献金として扱えばよいのである。そもそも数年間で2100万円という献金額に、いきなりの逮捕と強制捜査を敢えてこの時期に行うことが大いに問われるだろう。

 大メディアは検察のリークを鵜呑みにして、2100万円の献金額を突出しているなどといっている。しかし、これは数年間の総額であり、年間額にしてみると数100万円規模である。小沢代表系への毎年の個人、団体を問わず献金総額(数億円)からして、突出して大きいなどと言える額ではないだろう。連日、代目ディアが事実報道と言いながら、ことさら検察がリークする情報を垂れ流していること自体、いつものように「情報操作による世論誘導」となっていることを忘れてはならない。

 たとえばここ数ヶ月、日本の大メディアが神様のように拝みたてまつる米国のオバマ大統領が大統領候補だったとき、オバマ陣営が集めた政治資金は総額約7億ドル、約600億円であった。その9割は一般有権者からの献金であるが、残りの一割はかのリーマンブラザースはじめ金融投資銀行はじめ企業やロビイストなどの大口献金者からのものだった。

 それよりもなによりも、この時期にいきなり小沢代表の側近を逮捕し、強制捜査で家宅捜査を大マスコミ注視の中で大々的、センセーショナルにに行うことが、民主主義に関しては後進国並みの今の日本社会全体に対し、いかなるマイナスの影響をもたらすかは計り知れない。それひとつをとっても今回の東京地検特捜部がしていることは異例であり、異常である。

 もとより西松建設問題は以前から指摘されていたことである。くだんの2つの西松建設関連の政治団体は2006年に解散している。もし、虚偽記載など政治資金規正法上の疑義があるなら、担当者を任意で地検を呼び「修正申告」を勧告すれば事足りたはずだ。

 そもそも政治資金規正法における政治資金収支報告書の虚偽記載の罰則は、5年以下の禁固刑あるいは100万円以下の罰金である。もし、容疑を認めた場合には裁判を伴わない略式命令請求、通称、起訴起訴により数10万円程度の罰金、仮に当人が否認をし続け、起訴された場合でも執行猶予付きの判決が妥当のものである。

 何をさておき、ここで重要なことは、国民から見放され内閣支持率が10%そこそこに低下した麻生政権や自民党、総選挙、解散から逃げまくっていた麻生政権にとり、この時期での小沢代表側近の逮捕劇が与える意味だ。政権与党にしてみれば、今回のはなばなしい逮捕劇は、まさに、これ以上ない絶妙のタイミングといえるものであり、小沢代表ならずとも検察のしていることは異常としかいいようもないものだ。 

 いうなれば、実質的に独裁政権が半世紀続き、「政」「官」「業」さらには「政」「官」「業」「学」「報」、すなわち政治、官僚機構、業界、そして御用学者と御用メディアが結託し、税金を食い物にしてきた日本で、まさに100年に1度の政権交代の前夜を見計らって東京検察は、故意に意図的に政権交代のシンボルである小沢代表側に決定的なダメージを与えたことになる。

 永年、「政」「官」「業」「学」「報」による情報操作による世論誘導によって格差社会に陥れられ、正直者がバカを見続けてきた日本国民がやっとのことで自民党見限った。もし、ここで総選挙を行えば、自民党が歴史的大敗北することは間違いなかった。

 それを考えると、今回の東京地検特捜部の小沢代表側近への対応は、民主党ならずとも、東京地検による「国策捜査」であると言われても仕方がない。 もとより、政権交代直前に政敵を逮捕するというやり方は、東南アジア諸国の政治的後進国で起きていることであり、到底G7の国で起きることではないだろう。

 政権交代がかかる選挙直前での政敵やその周辺の逮捕はフィリピン、マレーシア、ミャンマー、シンガポールなど東南アジア諸国でよく起こる政治的謀略を連想させるものである。

 かつてUPIの記者で現在ビデオ・ジャーナリストの神保哲生氏は、「民主主義が未成熟な国では、権力にとっての最大の武器が軍事力と警察です。それに歯向かえばメディアも市民も殺されてしまう。そのため、誰も声を上げず、政治権力は益々暴走するのです。民主主義の進んだ先進国なら、仮に権力が暴走したとしても、市民社会は容認しない。メディアが真実を暴くでしょうし、検察は後半維持できません」と述べる。

 小沢代表は自民党政治家に忌み嫌われている。また大のマスコミ嫌いもあり大マスコミにも評判は良くない。だが、その本当の理由は、自民党の恥部にあたる政治手法を知り尽くしていることにあるからだ。他方、小沢氏は国政、地方を問わず選挙に強いこともある。

 さらに小沢代表は、いうまでもなくブッキラボーで愛想はない。だが小沢代表は日本にはめずらしいブレない、信念を持った政治家でもある。

 しかし、麻生はじめ小泉など同じ世襲議員でもブレまくり、庶民、国民など社会経済的弱者のことはそっちのけで弱肉強食の社会、格差社会を平然とつくってきたインチキ政治家とはまるで違う。 半世紀に渡り政官業学報の癒着で利権を欲しいままにしてきた日本政治に、小沢代表は、日本社会を変えるためには自分が変わらなければダメとして政治生命を賭け、政権交代に挑んできた男だ。

 今回の一件が自民党の延命に手を貸すこととなり、先進国でも希な自民党の悪政がさらに5年、10年、15年と続く可能性もないとはいえない。

 あれこれ酷く言われながらも、民主党をここまで育ててきたのは小沢一郎の功績である。しかし、公設秘書逮捕問題への対応を一歩間違えば、今まで政治生命をかけ努力してきたことがすべてパーになる。それだけにすまない。日本の民主主義にとっても深い傷を負うことになり、場合によっては致命傷となるかも知れない。

  そうなれば、まさに政権交代なき日本は「暗黒社会」となる。 確かに言えることは、今回の一件は当初センセーショナルであった。しかし、国民が冷静に今回の一件を考えれば、日本の将来の本筋は利権と手あかにまみれた自公政権の延命にあるのではなく、自らの手で何はともあれ政権交代を実現することにあると再度理解するはずだ。

 もちろん、小沢代表を含め今の民主党は第2自民党的な側面をもっている。多くの課題もある。だからといって日本の暗黒でやりたい放題、国民を愚弄し、格差者社会で生活苦に追い込む自民党政治このままを継続させることがあってはならない。 

ここは国民の認識、民度が大いに問われることになる! 

参考・引用 日刊ゲンダイ 2009.3.5号