2009年4月20日月曜日

オバマの真価を問う中南米諸国との関係修復  青山貞一

 現地時間の2009年4月17日、カリブ海のトリニダードトバコのポートオブスペインで米州首脳会議が始まった。 この会議は、ひさびさに北米、中米、南米、カリブ海諸国が一同に会する会議である。 開幕式典で演説したオバマ米大統領は「上下の無い対等な関係構築に努める」と述べた。

 しかし、ノーム・チョムスキーMIT教授の言葉を借りるまでもなく、米国は歴史的に中南米、カリブ諸国を米国の裏庭とみなし、あたかも殖民地であるかのごとく扱ってきた事実がある。

 またJ.F.ケネディ大統領以来、米国はキューバを敵視し、キューバに対して経済封鎖を公然と現在に至るまで行っている事実もある。

 これら米国の中南米、カリブ諸国へのいわば「蔑視政策」は、前ブッシュ大統領において頂点に達していた。.... これら米国のいわば蔑視政策に対し、中南米諸国は、反米・反帝国主義を掲げるヴェネズエラのウゴ・チャベス大統領がリーダーシップをとる形で、ボリビア、ニカラガなど反米急進派だけでなく、ブラジル、アルゼンチン、さらに穏健派諸国を巻き込む形で反ブッシュ包囲網を形成してきた。

 そのウゴ・チャベス大統領は、国連でブッシュ大統領を「悪魔」呼ばわりする一方で、フィデル・カストロ前キューバ革命会議議長らキューバ政府の立場をあらゆる公式の場で代弁してきた。

 世界各国にとって「悪魔」であったブッシュ政権から、米国では黒人初のオバマ大統領となったが、実は今回の米州首脳会議にもキューバだけが出席を拒否されていた。歴代、米国の大統領が拒否権を発動してきたからである。

 ところでこの会議で、オバマ大統領は「アメリカ政府はキューバと、人権・表現の自由、民主的改革など、幅広い問題について協議する用意がある」と述べ、長年対立してきたキューバに対し、「アメリカは新たな始まりを求めている」と呼びかけた。

 これに対し、変米の雄、チャベス大統領は、「米国よりキューバの方が民主主義がある」と持論を展開、民主化への取り組みの遅れなどを理由にキューバのOAS復帰を拒む米国を批判した。

 客観的に見て、ケネディー大統領がキューバへの経済封鎖を行ってこの方、米国の歴代大統領がとってきたキューバ敵視政策は、チャベス大統領の言を待つまでもなく、まったく時代にそぐわないものである。いわば旧ソ連との間での冷戦構造時代の歴史的遺物のようなものである。

◆青山貞一:米国の経済封鎖、オバマ大統領は封鎖解除を!

  またブッシュ政権時代を見れば分かるように、米国は対外的に人権だ民主主義だと声高に叫ぶ割に、アフガン、イラクなど中東諸国にエネルギー新殖民地主義的な侵略を行ったり、キューバの東端にあるガンタナモ基地に多くのアフガン、イラク、パキスタンなどイスラム人を強制収容している。

 米国は世界各国から人権無視と厳しい批判を受けており、オバマ大統領はガンタナモ基地のこの刑務所の閉鎖を公約している。

 米国の建国の理念、精神がいくら立派で崇高であっても、現実に米国が中南米諸国でCIAや軍を使い行ってきたことは、国際音痴の日本人やジャーナリズムが知らないだけで、ブッシュ前大統領がいう「テロ国家」そのものであったといえる。 その意味でチャベス大統領のいう「米国よりキューバの方が民主主義がある」という言葉は極めて現実味をもっており、同時に言葉の重さをもつものである。

 ただ中南米、カリブには今でも米国の裏庭、殖民地的な地域や傀儡政権的国家が多数ある。その意味で、反米、反グローバリズム、反国主義を旗幟鮮明にし、物言う大統領、チャベス氏の役割は一段と大きなものとなるだろう。

 一方、私見だがオバマ大統領の真価が本当に問われるのは、欧州、日本ではなく中南米、カリブなどの諸国との関係改善が可能となるかどうか、とくにキューバへの経済封鎖経済封鎖や敵視政策を大幅に改善できるかどうかにかかっていると思う。


ブッシュ前政権と違いアピール 米、中南米と融和姿勢
東京新聞 2009年4月19日 朝刊 
【ニューヨーク=阿部伸哉】
 十七日にカリブ海のトリニダード・トバゴで開幕した米州首脳会議で、オバマ大統領の中南米外交が本格始動した。大統領は反米左派のベネズエラのチャベス大統領と握手を交わし、演説でキューバとの対話姿勢を打ち出すなど、ブッシュ前政権との違いをアピール。左派勢力の伸長が目立つ中南米で、米国の復権にどこまでつながるか注目される。

 会議の最大の焦点は、米国から約半世紀にわたって経済制裁を受け、事実上の除名処分を受けているキューバの扱い。公式議題ではないが、中南米諸国から制裁解除を求める声が高まっている。 オバマ大統領は開幕式のあいさつで、参加国の期待に応えるようにキューバに何度も言及。「どの国も自分の道を歩む権利がある」とし、「米国はキューバとの新たな始まりを求める」と述べた。

 クリントン米国務長官も前政権の対キューバ政策は「誤りだった」と認め、政権の方針転換を印象づけた。

 キューバを社会主義モデルと仰ぐチャベス大統領は前日、首脳会議の最終宣言案を「米国の対キューバ制裁解除が盛り込まれていない」として拒否。緊張感が高まる場面もあったが、オバマ大統領は開幕式の前にチャベス氏と握手し、融和ムードを打ち出した。

 チャベス氏は十八日、中南米の植民地支配の歴史を記したウルグアイ人作家の著書をオバマ大統領に贈呈。米政権が中南米諸国への理解を深めることを期待したとみられ、オバマ大統領は笑顔でこれを受け取った。


米州サミット開幕 オバマ大統領「中南米と対等な関係」
【ポートオブスペイン(トリニダード・トバゴ)=檀上誠】

 北・中南米の首脳が一堂に会する米州首脳会議(サミット)が17日、当地で開幕した。開幕式典で演説したオバマ米大統領は「上下の無い対等な関係構築に努める」と述べ、これまで「米国の裏庭」とみなして配慮を怠ってきた中南米に対する政策の転換を宣言した。

 式典ではこれに先だちアルゼンチンのフェルナンデス大統領が「序列ではなく協調を基にした関係が必要だ」と指摘。オバマ大統領が応じた格好だ。

 オバマ氏は中南米各国の首脳が求めている対キューバ政策見直しについて「米・キューバ関係は新たな方向に前進できる」と発言。中米歴訪の直前に発表した在米キューバ人の一時帰国の緩和など、対キューバ政策の根本的な見直しに踏み出したことを強調した。

 開幕式典では、反米を掲げるニカラグアのオルテガ大統領が一時間を費やし、米国の歴代政権の中南米政策を批判する一幕もあった。オバマ大統領は「自分が生まれたころに起きたことまで、私のせいだと言われなくてよかった」とかわした。(13:12)日経新聞


OAS宣言案に拒否権も=キューバへの言及に不満-ベネズエラ大統領 
【ポートオブスペイン16日時事】

 ベネズエラの反米左派チャベス大統領は16日、カリブ海の島国トリニダード・トバゴの首都ポートオブスペインで17日から開幕する米州機構(OAS)首脳会議で採択予定の首脳声明について、OASから事実上排除されたままのキューバへの言及に不満があるとして、同調する他の国と共に拒否権を発動すると語った。AFP通信などが伝えた。

 チャベス氏は「宣言は受け入れ難い。時宜にかなっておらず、まるで時間が止まったかのようだ」と指摘。さらに「米国よりキューバの方が民主主義がある」と持論を展開、民主化への取り組みの遅れなどを理由にキューバのOAS復帰を拒む米国を批判した。
(2009/04/17-10:15)時事通信

2009年4月11日土曜日

情報操作による世論誘導、自滅の東京地検特捜部  青山貞一

■検証ないまま検察リークを垂れ流す大メディアの犯罪性

 総選挙、政権交代前夜に、東京地検特捜部が小沢代表の公設第一秘書を突然逮捕することではじまった今回の一件は、2009年3月24日、大久保秘書の拘留期限ぎりぎりのところで、大久保秘書を「起訴」した。

 大久保公設第一秘書の起訴を発表した東京地検の佐久間達哉特捜部長は、捜査の正当性を強調したが、逮捕後2日間で地検には約100件のメールが寄せられ、その8割近くが東京地検に批判的な内容だったという。

 ところで今回の一件がきわめて異例、異常であったことは、東京地検による大メディアへの連日の捜査情報のリークでも分かる。東京地検特捜部は、まさに連日連夜、逮捕され取り調べられている西松建設社長などの供述内容をあたかもそれが100%事実であり、真実であるかのごとく、大メディアに垂れ流し続けた。

 今回の逮捕、起訴がいかに常軌を逸したものであるかについては、元東京地検特捜部の検事、現在、桐蔭横浜大学法科大学院教授の郷原信郎氏の発言からも、今回の一件が従来の東京地検捜査の常道からもかけ離れたものであったことがよく分かる。

 郷原信郎教授の発言内容については、「ガダルカナル」化する特捜捜査、「大本営発表」に惑わされてはならない Nikkei Businessなどをお読み頂きたい。

 ここでの最大の課題は東京地検の検事らが、匿名とはいえ実質的に法を犯してまで捜査情報をリークしたことに加え、それをもらい受けた大メディアが何ら自ら検証することもないまま、地検のリークの情報を新聞の一面、テレビニュースのトップで連日連夜垂れ流したことだ。

■相も変わらずの検察のダブルスタンダード

 私はここで、敢えて刑事事件は「推定無罪」であるなどというつもりはない。
 私が言いたいことは次のことだ。
 一昨年、私が勤務する大学の大学院生(中国からの留学生)が神奈川県警に突然逮捕され、逮捕から22日後に起訴された。その後を含め大学院生は実に4ヶ月間も警察の拘置所に拘留された。
 当該事件では、改正刑事事件訴訟法に新たに規定された公判前整理手続が援用された。

●神奈川県警+横浜地検の准冤罪事件
青山貞一:神奈川県警+横浜地検共作による留学生准冤罪事件①
青山貞一:神奈川県警+横浜地検共作による留学生准冤罪事件②

 この事件では結果的に神奈川県警の誤認逮捕や検察の強引な誘導捜査、取り調べなどが次々に明らかになり、横浜地裁の大島裁判長は、逮捕・起訴された大学院生に完全無罪を言い渡した。
 しかも、何と地検は控訴しなかったのである。一審で無罪が確定した。

 このようなことは、刑事事件総数の0.1%にも満たないというから、いかに神奈川県警、横浜地裁がしたことが杜撰きわまりないものであったかが分かる。

 私は7000名近くの学生、教職員がいる大学の全学リスク管理委員長をしており、本件では最初から最後まで直接関与することとなった。横浜地方裁判所で行われたすべての公判にも参加した。

 ここで問題なのは、検察側は公判前整理手続きを導入したことで、捜査、取り調べの情報を被告側弁護士にのみ提供し、マスコミはもとより、親族や私にも一切情報提供しなかったことだ。公判に影響を及ぼすという理由からである。大学院生の弁護士も、その旨を私に伝え、上記関連資料を見せることはなかった。

 だが、あやうく冤罪事件になりかかったこの事件で分かったことは、警察・検察側は自らの強引な捜査・取り調べ、供述強要などに係わる情報資料をすべて被告側弁護士に渡していなかったことである。

 本事件に係わったK弁護士によれば、警察や検察は公判前整理手続きが導入された後も、自分たちに都合の悪い証言や資料は弁護士側に提供しなかった。公判に入ってからK弁護士がそれを執拗に検察側に指摘し、やっとのことで警察や検察が隠していた情報がポロポロとでてきたと言われた。

NHKによる大久保秘書供述の大誤報!?

 小沢代表の公設第一秘書大久保氏の逮捕、起訴に関連し、特捜部長や検事総長などは司法、検察の独立性、公平・公正性などを強調している。

 そのさなか、こともあろうかNHKは逮捕拘留されている大久保公設第一秘書が、供述をはじめたというニュースを垂れ流した。

 すなわち、3月25日午前0時にNHKは「大久保隆規氏が政治資金報告書にウソの記載をしたと起訴事実を認める供述をしていることが関係者への取材で明らかになった」と報じたのだ。

 周知のように逮捕され拘置所に拘留されている大久保秘書が供述をはじめたという情報は、大久保秘書の弁護士を除けば検察以外知るよしもないものである。

 しかも、民主党側からは大久保秘書は完全黙秘をしており、かりそめにもNHKが関係者)からの情報としていて垂れ流した上記の情報は事実ではないとしている。以下それに係わる情報を示す。

 参院議員総会で輿石東会長は「3月3日に小沢代表の大久保秘書が逮捕というショッキングな出来事に我々は驚いた。政治資金の収支報告書に虚偽記載があったかどうかというのが問題。これでは代表は辞任する必要はない。このことを役員会で確認、常任幹事会で了承した。

 大久保秘書が容疑事実を認めたかのような報道がなされているが、その事実はないと弁護士から聞いている。世論操作がないようにマスコミの皆さんも報道してほしい」と発言。

 小沢代表は、参院での第1党のとして活躍に敬意を表した後、秘書逮捕、起訴の件でご迷惑、ご心配をかけたことを陳謝した。

 そのうえで、今回のことは、針小棒大の報道によってあたかも重大犯罪が背景にあるかのような印象を与えているが、起訴事実は政治資金の収支報告書の記載が虚偽であるというものだったこと、多くの企業や多くの個人から献金をいただいていること、一つひとつの献金を私自身が精査しているわけではないが、秘書を信頼して任せていること、西松建設の社長と面識はなく深いつながりはないことなどを説明した。

 また、「収支報告書の記載に関して、献金を受けた相手方を金額とともに記載すること、寄付を受けたのが政治団体だったので資金管理団体で受けたということで、そう記載したが、そこが検察の認識との違いである」としたうえで、「この種の問題で強制捜査、逮捕、起訴はなかった。私は納得できない。これは、私個人の政治活動の問題ではなく、民主主義の根幹に関わる問題」と指摘。

 となれば、天下のNHKは検察からガサネタをつかまされたか、捏造したかしかないことになる。

 これに関連し、3月25日に開催された衆院総務委員会におけるNHK21年度予算審議では、衆院総務委員会の原口筆頭理事がこの大久保秘書に関連したNHK報道について質問した。

 NHKの理事者は情報源の守秘を言い、鳩山総務大臣及び法務副大臣は、検察がメディアに捜査中の情報を漏洩することは断じて有り得ない、と述べていた。

 だが、当事者側である民主党の幹部議員が否定している大久保秘書の供述に対し、 報道されたNHKのニュースが100%事実に反するとしたなら、NHKは情報をどこから得たのか、それとも捏造したのかを明確にしなければならないだろう。

 東京地検ないしその関係者が敢えてウソ情報を流したかも知れない。一体どうなっているか?
 
 さらに検察は公判前整理手続きやこの春からはじまる裁判員制度でも捜査情報の漏洩には厳罰で対応することを口にしている。

 しかしながら、今回の事件で東京地検特捜部が現実に行なっていることを考えあわせると、裁判員制度でまともな審理が出来ると思えない。裁判員に検察が選択的に情報を提供することが十分考えられるからである。

 それは事実であるか否かにかかわらず検察がリークしたい特定の情報をあらゆる手段でメディアに垂れ流すという事実ではないだろうか

検察リークによる情報操作と世論誘導

 今回の一件では、どうみても東京地検特捜部は、連日連夜、記者らに捜査情報をリークしていたのである。さらに問題なのは、検察に飼い慣らされた大メディアの記者である。

 彼らは飢えた犬が餌をもらったときのように、与えられたリーク情報を金科玉条に一面トップに掲載してきた。およそ報道機関にあるまじき対応に終始してきたのである。

 もし、警察・検察が刑事事件の捜査情報を特捜部長らが言うように徹底的に守秘するのであれば、なぜ、顕示された事実が真実であるかどうかわからない情報、すなわち最高裁まで行かなければ最終判断できない情報をこともあろうか大メディアにリークするのであろうか?

 これでは、情報操作による世論誘導と言われても致し方ない。

 同時に、リーク情報をありがたくもらい受け、何ら自らの検証もせず、第三者のコメントもないまま一方的に垂れ流すNHKや民法テレビ局、大新聞は、およそメディアとはいえない。

 彼ら数ある大メディアは司法権力による情報操作による世論誘導に加担していると思われても仕方ないだろう。今回の一件でも大メディアはいずれも恥を知れと言いたい。

■公平・公正を著しく欠く検察捜査

 さらに言えば、特捜部長らは捜査の公平、公正性について主張している。しかし、これとてチャンチャラ笑わせる話しではないか。

 なぜ、二階経済産業大臣はじめ自民党の幹部代議士には一切手を付けないのか?最近になってやっと二階ルートにも捜査が及んだようだが、それが事実だとすれば、民主党からだけでなく国民からも地検がしていることは不公平、不公正きわまりないという批判が噴出したからに他ならない。 

 周知のように自民党が得ている企業からの政治献金額の総額は、確か民主党より4~5倍も多いはずだ。今回の西松事件では公表された単一の額では、小沢代表関連が一番多かったが、件数では圧倒的に自民党が多い。そのなかでも二階議員は突出していた。

 フリージャーナリスト、横田一氏らの現地調査によれば、二階大臣はいろいろカネにまつわる話が取り沙汰されている。

 なぜ、東京地検はこの時期に、突然、政権交代間近だった民主党代表の側だけをことさら大仰に責め立てたのか? これでは政府・自民党の意向を受けた「国策調査」と言われても仕方ないだろう。

 いずれにせよ、今回、東京地検がしたことは、民主党に対してだけでなく、国民に対しても大きな疑問を投げかけたことは間違いない。こんな司法当局が関与する裁判員制度でまともな刑事事件の審理ができるわけがない。

■検察、警察も政権交代に怯えている!?

 そういえば、政権交代が恐怖なのは何も利権でがんじがらめの自民党だけでない。霞ヶ関の省庁も同じだ。実は警察、検察にとってもそうなのだ。さらに言えば「政」「官」「業」だけでないはずだ。私達が「政」「官」「業」「学」「報」といっている分野全体が政権交代に怯えているのだ。

 民主党は常々、警察、検察の捜査、取り調べの可視化の法制化を提案している。自民党政権なら99.9%この可視化法案はないだろう。

 もし民主党が中心となって政権を取り、可視化法案を通したら、いままでの杜撰な誤認逮捕、見込み捜査、誘導尋問、供述強要など、まるで戦前の公安警察並みの日本の警察、検察の捜査実態が白日の下にさらけ出されることになる。ひょっとしたら警察、地検にとっても政権交代は恐怖なのかも知れない。
 これは決して穿った見方ではない。

2009年3月5日木曜日

なぜ、政権交代前なのか、 結果的に悪政に加担する東京地検特捜部  青山貞一

 民主党小沢代表の公設第一秘書をいきなり逮捕した東京地検特捜部だが、国民が半世紀に及ぶ自民党のやりたい放題の悪政から、自らの手で総選挙により解放する「前夜」に、敢えて強制捜査に踏み切ったことに対し、多くの識者が疑問を呈している。

 たとえばO氏は、「今回の容疑は3年以上前の話で、なぜ今なのか違和感が残る。この時期の逮捕は国策捜査と言われかねない」と述べている。

 さらに政治評論家のY氏は、「国民にとっては悪夢のような展開です。自民党政権が続くということは、2大政党制がかけ声倒れに終わり、腐敗堕落による一党独裁が続くということです。消えた年金に象徴されるようなごまかし政治が続き、官僚機構がのさばり、一部の政治家と企業だけがいい思いをする癒着政治が続くことになる。ヘタをすればあと10年も暗黒政治がつづくことにもなりかねません」と述べる。 言うまでもなく東京地検による今回の一件により、国民の間にいまだかつてなく盛り上がっていた政権交代の機運は完全に冷水をかけられた。

 それでも罪は罪、罰は罰という人はいるだろう。また自民党やNHKはじめ大マスコミは「国民に対し政治とカネにまつわる政治家の信頼を失墜させたことは間違いない」などと、「したり顔」の論評はある。 また西松建設による政治家への資金のバラマキは国会議員、知事を含め数10人に及んでいるなか、なぜ小沢一郎だけなのかという問いかけに、東京検察特捜部は小沢陣営に渡った額が突出して大きいからなどと言っているようだ。

 しかし、小沢氏自身が3月4日朝の記者会見で述べているように、もし、あらかじめ企業からの献金であれば、「陸山会」でなく企業献金が認められている政党への献金として扱えばよいのである。そもそも数年間で2100万円という献金額に、いきなりの逮捕と強制捜査を敢えてこの時期に行うことが大いに問われるだろう。

 大メディアは検察のリークを鵜呑みにして、2100万円の献金額を突出しているなどといっている。しかし、これは数年間の総額であり、年間額にしてみると数100万円規模である。小沢代表系への毎年の個人、団体を問わず献金総額(数億円)からして、突出して大きいなどと言える額ではないだろう。連日、代目ディアが事実報道と言いながら、ことさら検察がリークする情報を垂れ流していること自体、いつものように「情報操作による世論誘導」となっていることを忘れてはならない。

 たとえばここ数ヶ月、日本の大メディアが神様のように拝みたてまつる米国のオバマ大統領が大統領候補だったとき、オバマ陣営が集めた政治資金は総額約7億ドル、約600億円であった。その9割は一般有権者からの献金であるが、残りの一割はかのリーマンブラザースはじめ金融投資銀行はじめ企業やロビイストなどの大口献金者からのものだった。

 それよりもなによりも、この時期にいきなり小沢代表の側近を逮捕し、強制捜査で家宅捜査を大マスコミ注視の中で大々的、センセーショナルにに行うことが、民主主義に関しては後進国並みの今の日本社会全体に対し、いかなるマイナスの影響をもたらすかは計り知れない。それひとつをとっても今回の東京地検特捜部がしていることは異例であり、異常である。

 もとより西松建設問題は以前から指摘されていたことである。くだんの2つの西松建設関連の政治団体は2006年に解散している。もし、虚偽記載など政治資金規正法上の疑義があるなら、担当者を任意で地検を呼び「修正申告」を勧告すれば事足りたはずだ。

 そもそも政治資金規正法における政治資金収支報告書の虚偽記載の罰則は、5年以下の禁固刑あるいは100万円以下の罰金である。もし、容疑を認めた場合には裁判を伴わない略式命令請求、通称、起訴起訴により数10万円程度の罰金、仮に当人が否認をし続け、起訴された場合でも執行猶予付きの判決が妥当のものである。

 何をさておき、ここで重要なことは、国民から見放され内閣支持率が10%そこそこに低下した麻生政権や自民党、総選挙、解散から逃げまくっていた麻生政権にとり、この時期での小沢代表側近の逮捕劇が与える意味だ。政権与党にしてみれば、今回のはなばなしい逮捕劇は、まさに、これ以上ない絶妙のタイミングといえるものであり、小沢代表ならずとも検察のしていることは異常としかいいようもないものだ。 

 いうなれば、実質的に独裁政権が半世紀続き、「政」「官」「業」さらには「政」「官」「業」「学」「報」、すなわち政治、官僚機構、業界、そして御用学者と御用メディアが結託し、税金を食い物にしてきた日本で、まさに100年に1度の政権交代の前夜を見計らって東京検察は、故意に意図的に政権交代のシンボルである小沢代表側に決定的なダメージを与えたことになる。

 永年、「政」「官」「業」「学」「報」による情報操作による世論誘導によって格差社会に陥れられ、正直者がバカを見続けてきた日本国民がやっとのことで自民党見限った。もし、ここで総選挙を行えば、自民党が歴史的大敗北することは間違いなかった。

 それを考えると、今回の東京地検特捜部の小沢代表側近への対応は、民主党ならずとも、東京地検による「国策捜査」であると言われても仕方がない。 もとより、政権交代直前に政敵を逮捕するというやり方は、東南アジア諸国の政治的後進国で起きていることであり、到底G7の国で起きることではないだろう。

 政権交代がかかる選挙直前での政敵やその周辺の逮捕はフィリピン、マレーシア、ミャンマー、シンガポールなど東南アジア諸国でよく起こる政治的謀略を連想させるものである。

 かつてUPIの記者で現在ビデオ・ジャーナリストの神保哲生氏は、「民主主義が未成熟な国では、権力にとっての最大の武器が軍事力と警察です。それに歯向かえばメディアも市民も殺されてしまう。そのため、誰も声を上げず、政治権力は益々暴走するのです。民主主義の進んだ先進国なら、仮に権力が暴走したとしても、市民社会は容認しない。メディアが真実を暴くでしょうし、検察は後半維持できません」と述べる。

 小沢代表は自民党政治家に忌み嫌われている。また大のマスコミ嫌いもあり大マスコミにも評判は良くない。だが、その本当の理由は、自民党の恥部にあたる政治手法を知り尽くしていることにあるからだ。他方、小沢氏は国政、地方を問わず選挙に強いこともある。

 さらに小沢代表は、いうまでもなくブッキラボーで愛想はない。だが小沢代表は日本にはめずらしいブレない、信念を持った政治家でもある。

 しかし、麻生はじめ小泉など同じ世襲議員でもブレまくり、庶民、国民など社会経済的弱者のことはそっちのけで弱肉強食の社会、格差社会を平然とつくってきたインチキ政治家とはまるで違う。 半世紀に渡り政官業学報の癒着で利権を欲しいままにしてきた日本政治に、小沢代表は、日本社会を変えるためには自分が変わらなければダメとして政治生命を賭け、政権交代に挑んできた男だ。

 今回の一件が自民党の延命に手を貸すこととなり、先進国でも希な自民党の悪政がさらに5年、10年、15年と続く可能性もないとはいえない。

 あれこれ酷く言われながらも、民主党をここまで育ててきたのは小沢一郎の功績である。しかし、公設秘書逮捕問題への対応を一歩間違えば、今まで政治生命をかけ努力してきたことがすべてパーになる。それだけにすまない。日本の民主主義にとっても深い傷を負うことになり、場合によっては致命傷となるかも知れない。

  そうなれば、まさに政権交代なき日本は「暗黒社会」となる。 確かに言えることは、今回の一件は当初センセーショナルであった。しかし、国民が冷静に今回の一件を考えれば、日本の将来の本筋は利権と手あかにまみれた自公政権の延命にあるのではなく、自らの手で何はともあれ政権交代を実現することにあると再度理解するはずだ。

 もちろん、小沢代表を含め今の民主党は第2自民党的な側面をもっている。多くの課題もある。だからといって日本の暗黒でやりたい放題、国民を愚弄し、格差者社会で生活苦に追い込む自民党政治このままを継続させることがあってはならない。 

ここは国民の認識、民度が大いに問われることになる! 

参考・引用 日刊ゲンダイ 2009.3.5号 

2009年2月2日月曜日

ゲバラの生涯を4時間超で映画化した「チェ」鑑賞記  青山貞一


 エルネスト・チェ・ゲバラの生涯と活動を描いた新作映画、「チェ/28歳の革命」と「チェ/39歳 別れの手紙」を見た。 もともとこれら2つの映画は一本の映画「Che(チェ)」として作られており、それを劇場用として2本に分けたようだ。


 「チェ」の前編、すなわち「チェ/28歳の革命」は、2009年1月26日に東京都港区六本木ヒルズの映画館、「チェ」の後編、すなわち「チェ/39歳 別れの手紙」は、1月31日に東京都練馬区豊島園の映画館で鑑賞した。映画館入場料はいずれも1800円なので、「Che(チェ)」を見るためには3600円が必要となった。


 六本木ヒルズの「チェ/28歳の革命」は、そこそこ客が入っていた。が、「チェ/39歳 別れの手紙」は封切り当日にもかかわらず、約20名とパラパラの入りだ。ちょっぴり寂しさを感じた。


 映画だが、全編を通じていえるのは、きわめてドキュメント・タッチが強く、演出がほとんどないことである。淡々と事実が映像として流れる。この手法は前編でも後編でも同じだ。


 「チェ/28歳の革命」ではゲバラの国連演説など実際に撮影されたモノクロ映像と映画で新たに撮影し映像とを多面的に織りまぜ多用していた。映画で制作された部分、とくにモノクロ部分は敢えてドキュメント映像用に画質を調整していると思えるほど違和感なく溶け込んでいた。


 主演でチェを演じたベニチオ・デル・トロ(Benicio del Tro)がゲバラそっくりの姿、形、それにトロの名演が重なり、本当にどこからどこまでが当時の映像で、どこからが映画のための映像なのかが分からないほどだった。




自らプロデューサーも務めたプエルトリコ出身の俳優、デル・トロは、アルゼンチン出身のチェ・ゲバラを演じるにあたって、スペイン語の難しい訛りにも挑戦した。また退任前のキューバのカストロ議長と対面し、生前のゲバラについて入念にインタビューしたという。俳優魂に徹している。それもあり、完璧なゲバラ像を構築している。


 デル・トロは、ビートルズの一員、かのジョン・レノンに「世界一格好いい男」と絶賛されたゲバラを演ずるに最適の俳優であった。  以下は、第61回カンヌ国際映画祭で『CHE』(原題)でベニチオ・デル・トロが最優秀男優賞受賞を受賞したときの記事。


第61回カンヌ国際映画祭『CHE』(原題)ベニチオ・デル・トロが最優秀男優賞受賞!


 フランス時間2008年5月25日(日) 第61回カンヌ国際映画祭の授賞式がおこなわれ、キューバ革命の英雄、チェ・ゲバラの半生を描いたスティーブン・ソダーバーグ監督の超大作『CHE』(原題)で、主人公ゲバラを演じたベニチオ・デル・トロが最優秀男優賞を受賞した!


 本作『CHE』(原題)はフランス時間2008年5月21日(水)にコンペティション部門で公式上映され、2,300人の超満員の観客から約6分間のスタンディングオベーションを受けるなど、大変高い評価を受けた。


 革命の国として知られ、チェ・ゲバラを英雄視するフランス国民からも支持されたデル・トロの演技は、体重を25Kgも減量した熱のこもりようで文句なし、審査員全員一致での最優秀男優賞受賞となった。
 ショーン・ペンから「ベニチオ・デル・トロ」の声が上がると、会場内の拍手が鳴り止まず、途中、中断させられ、ようやく止まったほどだった。審査員は全員、スタンディングオベーションで迎え入れた。審査委員長のショーン・ペンいわく、「数少ない、審査員全員一致での受賞だった」とのことだった。


【ベニチオ・デル・トロ 受賞のコメント】
(登壇後、感極まって言葉が出ず、しばらく沈黙した後)
 ワイルド・バンチ(制作会社)とフランスのワーナー・ブラザースにまず、感謝の意を表したい。
 この映画を実現させるという僕の長年の夢をかなえてくれた。そして何より私はこの賞をチェ・ゲバラに捧げたい。そして、ソダーバーグとこの喜びを分かち合いたい。本作の撮影は非常にハードなものだったが、自分は俳優という仕事に専念することができた。それは、ソダーバーグ監督が全て支えてくれたからだ。

■チェ/28歳の革命


 前編の「28歳の革命」では、エルネスト・チェ・ゲバラが亡命先のメキシコでフィデル・カストロ(のちのキューバ最高議長)と運命的な出会いを果たし、28歳の若さでカストロとともにキューバ革命に着手し、1959年1月1日、革命を成し遂げるまでを描いている。


 この映画をみるひとは、できるだけあらかじめキューバ革命の経過を知っておく必要があると思う。
 1956年11月25日、カストロをリーダーとした反乱軍総勢82名は8人乗りのグランマ号に乗り込みキューバに向かうが、嵐の中での出航でもあり、キューバ上陸時には体力を消耗し、士気も低下していたとされる。


 映画ではメキシコのベラクルスからキューバ島に向かう船からはじまる。上陸後、シエラ・マエストラ山脈に潜伏し、山中の村などを転々としながら軍の立て直しを図る。その後キューバ国内の反政府勢力との合流、反乱軍は増強されていくさまをつぶさに描いている。


 当初、ゲバラの部隊での役割は軍医であったが、革命軍の政治放送をするラジオ局を設立するなど、政府軍との戦闘の中でその忍耐強さと誠実さ、状況を分析する冷静な判断力、人の気持ちをつかむ才を遺憾なく発揮し、次第に反乱軍のリーダーのひとりとして認められるようになっていった。


 1958年12月29日、ゲバラは軍を率いてキューバ第2の都市サンタ・クララに突入。多数の市民の加勢もあり、これを制圧、首都ハバナへの勝利の道筋を開いた。そして1959年1月1日午前2時10分、将軍フルヘンシオ・バティスタがドミニカ共和国へ亡命、1月8日カストロがハバナに入城、「キューバ革命」が達成された。


 ゲバラは闘争中の功績と献身的な働きによりキューバの市民権を与えられ、キューバ新政府の閣僚となるに至った。


 映画では工業相となったゲバラが、国連で米国帝国主義を公然と非難する演説を行う様子が延々と流れる。この演説は、YouTubeにもアップロードされているものだが、残念ながらYouTube判はゲバラの肉声が聞かれるものの、当然のこととしてすべてスペイン語であり、その内容はポツン、ポツンしか分からなかった。


 映画でも国連演説の映像と音声が使われていたが、映画では当然のこととして日本語訳がスーパーインポーズされ、ゲバラの発言内容が一字一句流れた。その内容は、まさに感動ものであった。ゲバラは米国の帝国主義とともにキューバを経済封鎖する米国を徹底的に糾弾する。


 国連演説に関連し、当時米国の傀儡政権の巣窟だった南米諸国の大統領や閣僚が次々にキューバの革命政権を中傷、非難したあと、ゲバラが演壇に立ち、それら米国の手先となっている傀儡政権の言い分を論破する。これも前編の大きな見所である。


■チェ/39歳 別れの手紙


 次に後編のチェ/39歳 別れの手紙は、表題となっている別れの手紙をカストロがキューバ国民に読み上げるところから始まる。何で突然、ゲバラがキューバからいなくなったかについて、国民に説明するためだ。


 ゲバラはカストロとの会談の末、新たな革命の場として、かつてボリビア革命が起きたものの、その後はレネ・バリエントスが軍事独裁政権を敷いているボリビアを選ぶ。


 南米大陸の中心部にあって大陸革命の拠点になるとみなしたボリビアを選び、1966年11月、ウルグアイ人ビジネスマンに変装して現地に渡る。この変装もなかなか見応えがある。チェはOAS(米州機構、英語でOrganization of American States、スペイン語でOrganizacion de los Estados Americanos)の関係者に扮してボリビアのパスポートコントロールを通る。チェックは受けるものの、簡単に通過し、ボリビアに入る。


 ゲバラのゲリラ戦術は、キューバでの実戦経験に裏付けられて完成されたもので少人数のゲリラで山岳に潜伏し、つねに前衛、本隊、後衛とわけて組織的に警戒し、必要があれば少人数で奇襲的な襲撃を仕掛けるというものだった。


 ゲバラはボリビア民族解放軍(ELN)を設立して山岳地帯でゲリラ戦を展開する。


 だが、ラモス(現地でのゲバラの名前)は独自の革命理論に固執したこと、親ソ的なマリオ・モンヘ率いるボリビア共産党からの協力が得られず、さらにカストロからの援助も滞ったため次第に疲弊してゆく。


 折からボリビア革命によって土地を手に入れた農民は新たな革命には興味を持たず、さらに元ナチスドイツ親衛隊のクラウス・バルビーを顧問としたボリビア政府軍が、冷戦下において反共軍事政権を支持していたアメリカのCIAから武器の供与と兵士の訓練を受けてゲリラ対策を練ったため、ここでも苦戦を強いられる事となる。


 映画では延々と、リビアの山中と川を行き来するゲリラ部隊の映像が流れる。食糧が尽き、山岳地帯の農民の家で金を払い食糧を調達するが、それらは同時に、ゲリラ部隊の消息をボリビア政府軍に通報させるきっかけを与えるものとなった。


 1967年10月8日、ゲバラは20名足らずのゲリラ部隊とともに行動、ボリビア・アンデスのチューロ渓谷の戦闘で、政府軍のレンジャー大隊の襲撃を受け、捕えられる。部隊の指揮を務めていたボリビア人とともに、渓谷から7キロ南にあるイゲラ村に連行され小学校に収容された。


 このイゲラ村を含め、後編に出てくるボリビアの山岳地帯の貧村は、おそらく現存する村をフィルムコミッションで使ったらしく、この映画、とくに後編のすべてをあらわしているように思えた。


イゲラ村

 ラ・イゲラ、La Higuera、スペイン語で「イチジクの木」の意は、ボリビアの小さな村。 サンタクルス県にあり、サンタクルス市から南西に150kmほど離れた場所にある。標高は1,950m。 2001年の国勢調査によると人口は119名でその多くがグアラニー族である。行政区分としてはプカラ (Pucara)郡に属する。


 その意味するところは、まさにボリビアでのゲバラらのゲリラ活動は、キューバと異なり、今風に言えば「キューバから来たテロリスト」という政府軍の情報操作、レッテル張りが功を奏し、村や村人には政府軍への通報こそあれ、支援、協力がなかったということである。


 後編では、まさにそれが映像のそそかしこに表現されていた。


 上記の小学校では、ゲバラに最後の食事与えた教諭のフリア先生が現在も元気でバイェ グランデで暮しており、バイェ グランデを訪問した大部分の記者が彼女にインタビューしているそうだ。


 翌朝、イゲラ村から60キロ北にあるバージェ・グランデからヘリコプターで現地に到着したCIAのフェリックス・ロドリゲスがイゲラ村で午前10時に電報「パピ600(ゲバラを殺せ)」の電文を受信。


 ゲバラの処刑は米国CIAのフェリックス・ロドリゲスと共に到着したボリビア国軍情報局のセンテーノ・アナヤ大佐の指示で行われた。大佐は顔や頭は撃たないように指示した。


 午後0時40分にベルナルディーノ・ワンカ軍曹(現在、報復を恐れ、ボリビアから離れて米国で暮らしている)にM1自動小銃で射殺された後、ゲバラは政府軍兵士のマリオ・テラン軍曹(30年近く基地内で暮らし、顔の整形手術を経て、ボリビア東部の農園で暮らしている)によってとどめの一発を食らい死亡した。


 殺害されたゲバラの死体は、CIAのロドリゲスらとともにヘリコプターでバイェ グランデ市のマルタ病院に運ばれる。映画にはないが病院の洗濯場で一般市民、報道関係者に公開された。この洗濯場は現存するが非常に粗末な施設である。


 ゲバラの遺体は、1967年10月10日まではマルタ病院の洗濯場にあり、その後、行方が30年間極秘にされていたとのこと。
.....
 映画ではヘリで遺体が運ばれるところで終わり、メキシコのベラクルスからカストロらとプレジャーボートでキューバに向かう途中の甲板にいる無言のチェ・ゲバラがラストシーンとして映し出される。


 以下は政府軍に殺害された跡のゲバラの写真(映画にはない)。

 
■ゲバラの喘息


 これは後編でとくに言えることだが、ゲバラはわずか2歳にして重度の喘息と診断されている。


 これが示すように、39歳の短い生涯を通じ、喘息がチェ・ゲバラの活動に暗く大きな影を落としている。
 ゲバラは幼少期から痙攣を伴う激しい喘息の発作で生命の危機に陥ること度々あったという。そのゲバラは重度な喘息患者でありながら、葉巻を放さない喫煙家であった。そこに大きな矛盾を感じるのは私だけではないだろう。


 医者でもあったゲバラは、この矛盾、すなわち何度も発作で死にかかっていながら葉巻を吸い続けたことがボリビアにおけるゲバラの永続革命にとって決定的なマイナスとなったことは否めない。


 実はこの論考を執筆している私(青山)も重度な喘息患者である。


 過去、何度も激しい喘息発作に見回れ、救急車で近くの昭和大学病院の救急センターに連れ込まれた。その意味で重度な喘息の怖さを十二分に体験、認識している。


 映画の前編ではゲリラ活動の多くがキューバではシエラ・マエストラ山脈の山中にあり、後編の舞台となったボリビアでは、さらに山深く急峻な山中にあった。しかもゲバラは機関銃など重い荷物や銃を所持しながら急峻な山中を動き回わっていた。ひとたび気管支喘息の激しい発作に見舞われると、身動きができなくなる。


 実際、「チェ/39歳 別れの手紙」ではボリビア・アンデスのチューロ渓谷での政府軍との戦闘では、何度も激しい喘息発作に見舞われ、仲間の救護を得るも、動きはままならず、政府軍に捉えられるさまが映し出されていた。


 後編のなかで、チェ・ゲバラ自身、ボリビアに喘息の薬をもってこなかったことが、自分の最大の廃嫡(はいちゃく)、失敗であったと述べている部分がある。まさに、その通りであったと思える。


■イゲラの聖エルネスト 


 1997年、死後30年にして遺骨がボリビアで発見された。遺骨は遺族らが居るキューバへ送られ「帰国」を迎える週間が設けられ、遺体を霊廟へ送る列には多くのキューバ国民が集まった。


 今日でもチェ・ゲバラは、中南米を始めとした第三世界で絶大な人気を誇るカリスマ、なかんづくボリビアではイゲラの聖エルネストと呼ばれる。


 イゲラはゲバラが政府軍に捉えられ、殺害されたあの村の名前である。


 そのボリビアだ、2006年、 ペルーのアレハンドロ・トレドに続いて南米大陸二人目のボリビアでは初の先住民出身となる大統領、エボ・モラレスが「社会主義運動」より就任した。


 現在、ボリビア民衆にとって、チェ・ゲバラは自分たちの守護神であると感じているだろう。 
 前編、後編の両方を見終わった跡の率直の感想として、後編こそがチェ・ゲバラそのものをあらわしているものとして大いに感銘を受けた。


 また、チェ・ゲバラになりきった男優、ベニチオ・デル・トロはすばらしい。


■腑抜けで「玉なし」の先進国の男達への警鐘!?


 今、まさに世界中の男性が腑抜けで玉なし状態となっているなか、彼は「世界一格好良い男」となったのである!


 もし今、チェ・ゲバラがこの世に生きていたら、極致に達した「格差社会」をどう思うか、アフガン、イラクを侵略し続ける米国やガザの市民を虐殺するイスラエルをどう思うか、映画館からの帰り道、ふと感じた。

2009年1月29日木曜日

支持率14%、地位にしがみつくだけの麻生ご臨終内閣 青山貞一

日本のある民間機関の調査によれば日本人のオバマ支持率は89%に達したそうだが、我が日本国の総理、麻生KY内閣の支持率は落ちるばかりだ。

 1月中の報道各社の調査結果は読売以外の支持率がすべて10%台となった。その読売新聞では逆に、麻生内閣の不支持率が最高の72.3%と出た。

 直近の調査であるフジサンケイ系のFNN調査では内閣支持率が何と、14.4%となった。かつての森内閣同様、醜態をさらしながらの一桁突入も時間の問題と言える。

 ところで2009年1月29日の日刊ゲンダイは、一面で次のように述べている。「無責任政党自民党、いよいよご臨終。死に体首相が施政方針演説とは笑わせる。支持率わずか15%にも満たない末期のくせに総理大臣ズラ。国民の批判憎悪は日を追って増えていると書いている」 

まさにその通りである。もはやご臨終。死に体内閣である! 

衆院選挙を経ずに二世、三世議員が総理をたらいまわしし、跋扈する日本政治を諸外国が相手にするわけがない。地上波のアホメディアは、隣国の後継者をどうのこうの言う前に、日本のお寒い実態を問え。 これほど精神的に貧しい先進国はない。自公はいい加減に国民の審判を仰げ!

2009年1月22日木曜日

イスラエルがガザ地区攻撃を突如止めた2つの訳  青山貞一

 イスラエル軍による激しい攻撃が続いていたガザ地区で、2009年1月19日、イスラエル政府が「一方的に停戦」に踏み切った。

 この間、ガザ地区でイスラエル軍により殺傷されたガザ地区に居住する人々は、推定で死者が1300人、うち子供が410人、女性が108人、負傷者が5320人、重傷者が500人にも及んでいる。

 イスラエル政府は突然一方的に停戦した理由を初期の目的、成果を上げたからなどと言明している。仮にハマスの攻撃能力や武器輸出力を低下させるために、世界各国が中止する中、白昼堂々と1300人ものひとびとが無差別に大量殺戮されたのは筆舌に尽くしがたい暴挙である。

 ところで、日本の大メディアは、イスラエルが突然「一方的に停戦した」、しかもイスラエル政府はその理由を初期の目的、成果を上げたなどと垂れ流しているが、イスラエルが停戦した本当の理由は何か? 

 イスラエルが今回のハマス攻撃を理由としたガザ地区攻撃を、かなり前から計画していたことはすでに多くの識者が指摘しているが、イスラエルがガザ地区を2008年末に急に攻撃開始し、2009年1月19日に止めたのは間違いなく次の二つの理由によっていると思える。

(1)オバマ政権担当1月20日 最初の理由は、イスラエル政府、イスラエル軍を徹底的に支援してきた米国のブッシュ政権が2009年1月20日に終演することと関係している。

 筆者は12月30日に書いた論考の中で、「永年、イスラエルの後ろ盾となってきたブッシュ政権が終焉する前に、イスラエルが今回の攻撃(侵略)をしかけてきた可能性が高い」と書いた。

 ◆青山貞一:ブッシュ政権末期のイスラエル侵略行為 

 まさにイスラエルはブッシュ政権が終焉する前に、ブッシュ政権が了承する中で最後の賭にでたのである。 案の定、ブッシュ政権は国連安保理事会などで、イスラエル停戦決議を安保理事会参加国で唯一棄権している。またライス国務長官は絶えずイスラエルの立場をを擁護する姿勢をとってきた。

 イスラエルは、2009年1月20日にオバマ新政権が誕生することを見越して、1月19日に一方的に停止したのである。(2)イスラエルの総選挙(2月10日)

 イスラエルがわざわざ停戦協定を破ってガザ地区に空爆を開始したもう一つの理由は、イスラエル内の「バラクとリブニの政争」であると考えられている。 国際政治の専門家田中宇氏によれば、イスラエルの国防大臣のバラクは好戦派で、労働党の党首であり外務大臣のリブニは戦争を抑止したい外交派であるカディマの党首である。

 ◆田中宇:ガザ・中東大戦争の瀬戸際

 イスラエルは2月10日に総選挙があるが、好戦派のバラクの労働党は劣勢だったが、ガザ地区攻撃によって、多くのリブニ支持者がバラク支持に回ったと指摘されている。

 結局、イスラエルの各種国際法に違反すると思えるガザ地区への無差別殺戮は、米国ブッシュ政権とイスラエル世界の2つの「ならず者国家」の密接に連携したものであることは明らかである。

 ブッシュ政権は最後の最後まで、世界の「ならず者国家」国家(政権)であったと言わざるを得ない。

2009年1月16日金曜日

支持率20%を割り込んだ麻生KY断末魔内閣   青山貞一

 ブレ続け、迷走に迷走を続ける麻生内閣の支持率が20%を割り込んだ。他方、不支持率は70%前後と上昇している。直近では安倍、福田とも20%を割り込んだところで退陣している。

 過去から、この種の伝統的な世論調査は、インターネットのWeb上のアンケート調査とまったく異なり、層化2段無作為抽出法(下図参照)など、統計学的にみて妥当な方法を用いて行われているので、時期が同じであれば結果にそれほど大きな違いはないはずだ。

 事実、1月上旬に行われた今回の内閣支持率の世論調査結果では、フジサンケイグループ、読売新聞、朝日新聞、共同通信、いずれもほぼ同じ傾向と結果となっている。FNN合同世論調査における内閣支持率・不支持率の推移朝日新聞・共同通信に見る麻生内閣の支持率・不支持率の推移 各社の世論調査で内閣を支持しない理由として最も多いのは、「政策に期待できない」というものだ。「読売」で36%、共同で29%と不支持理由の1位となっている。

 世論調査における麻生政権の不評な具体的施策として、公金を使った“選挙買収”と批判されている総額二兆円に及ぶ「定額給付金」がある。

 「支給をやめるべきだ」と答えた人が78%(「読売」)、70・5%(共同)、78%(JNN)にのぼり、反対が圧倒的多数となっている。この定額給付金は自治体などの事務経費が800億円とも1000億円ともなることが分かっており、実に不誠実、不見識な国民を愚弄するバラマキ策である。 しかも、この100年に一度の経済危機に、総理はじめ閣僚がもらうだ、もらわないと公衆の面前で人を馬鹿にした言動を繰り返していることが国民からいっそうの反感を買っていることは間違いない。

 さらに迷走する麻生首相が掲げる2011年度からの消費税引き上げについては、「評価する」が約3割なのに対し、「評価しない」が、59・1%(「読売」)、56%(「朝日」)と過半数を占めている。 自民党の細田博之幹事長は1月13日午前の記者会見で、世論調査で麻生内閣の支持率が10%台となったことに関連して「批判は批判として受け止めるが、今日あたりが底だ」と強調した。

 この種の政府幹部の強気の発言は、これまで幾度と繰り返されてきたが、その後の推移を見ると麻生政権も安倍、福田政権同様、奈落の底にまっしぐらとなっている。到底、「今日あたりが底」などとはなっていない。歴代内閣はいずれも支持率が10%台となったあとジ・エンドとなっている。

 もとより、何ら正当性も正統性もない小泉以降の安倍、福田、麻生のたらい回し政権は、いずれも二世、三世など世襲議員であり、あらゆる場面で人並みの苦労をせずに国会議員となったひとたちである。

 百年に一度という経済危機、国難にマトモに対応できるわけがない。麻生総理は「政局より政策」ともっともらしいことを言いながら、実際にしていることはすべて政局まがいで、終始解散逃れのことばかりであり、やることなすことがちぐはく。

 結果的に景気は大企業から中小零細企業まで悪化の一途をたどり、今年三月末の決算ではトヨタ1500億円、ソニー1000億円など赤字のオンパレードとなる見込み。昨年後半から顕著となった企業の倒産件数、とくに上場企業の倒産件数の歯止めがかからない。

 そもそも1ドルが100~110円をめどにして、輸出依存の加工貿易を国是、国策としてきた日本は、一旦、円高となればあっと言うまに利益がなくなる。トヨタやソニーが従業員を一気に大規模解雇したのはとんでもないことだが、トヨタが1円円高となるごとに400~500億円の赤字となるのは間違いない。すべてがすべて円安、輸出、安い人件費などをもとに企業活動を続けてきたからである。

 上場企業には100%輸出依存の企業もあるが、著名な製造業企業の多くが製品の70%以上を海外輸出に頼っているのが日本である。こうなると、金融危機と円高が同時並行で進む現下の経済状況下では、一気に企業の経営が悪化する。

 もちろん、直近の数年は超がつく好景気であった。税引き後の内部留保の余剰金の累積がトヨタが15兆円超、キャノンが3兆3000億円超など、なまじの小さな国の一般会計予算より大きな額がある。したがって、いきなり大規模な首切りをするのではなく、調整期間を設けるのがCSR、すなわち企業の社会的責任をまっとうすることであると思う。

 ちなみに、日本の大手製造業16社の内部留保(余剰金)の合計は33兆円に及ぶと言われている。日本の一般会計の国家予算が80兆円前後であるからその1/3以上に相当する額である。

 とはいえ、大から零細まで企業収益が一気に悪化すれば、今後の国、自治体の財政運営が今まで以上に困難になるだろう。住民税なども収入が増えず、解雇で満足な収入の道がない人々が増えれば、市町村財政はさらに悪化することは火を見るより明らかだ。まともな報道をしていない日本の大メディアも、スポンサーの景気が悪化すれば、さらにスポンサーの顔色を見ながら番組をつくることになる。

 毎日毎日、アホづらしてしたり顔で偉そうなことを言っている国会議員らをテレビで見るに付け、がまん強い日本国民も爆発寸前となっているのはいうまでもないことだ。よくぞ今まで忍耐していたものである。 そもそも国会議員、地方議員、国、自治体の行政はすべて国民、企業が納める税金を原資として食っている。 巨大上場企業が軒並み赤字となれば当然のこととして法人所得税が大きく目減りするからだ。プライマリーバランスもとれないばかりか、今後、一般会計そのものも過去以上に借金割合が増える。累積債務も増えることになるだろう。

 今後とも円高基調は継続するし、一旦下落した原油価格だが、いつなんどき上昇に転ずるか分からない。さらに、米国発の世界的な金融危機はたとえオバマ政権となったからと言って急速に改善するとは思えない。 とりわけ不況で倒産が顕著なのは不動産、建設分野だ。昨年、不動産や建設会社の倒産が相次いだ。しかし、今年もこの状況は一向に改善されることなく続きそうだ。

 1月9日には、ジャスダック上場の東新住建と東証1部のクリードが倒産。新年早々の出来事に衝撃が走っている。 いずれにせよ2008年の倒産が5年ぶりに1万5000件を超過し、上場企業の倒産は33件と戦後最多となった。今年はそれを上回る倒産が危ぶまれている。

 となると、不況克服には、まずは国民世論の空気も読めず、漢字も読めない麻生KY断末魔内閣の退陣以外なしということになる!

 麻生政権に限らず、自公政権はとっくに賞味期限だけでなく、消費期限が切れていて食べると危ない状態になっているはずだ。それが分からないのは当事者だけ、まさに裸の王様状態が続いている。 みんなで踏ん張れば怖くないという時期はとっくにすぎている。現状維持と既得権益にしがみつく世襲の国会議員を見るに付け、この国の政治が官僚同様いかに腐りきったものであるかがわかるのである。

 上述のように国民の大半が「そんなものいらない」「ムダ」だ言っている定額給付金にしがみつき、無駄な時間を浪費していることひとつをとっても、麻生総理は頭の回転が悪く、KYそのものである。

 こんな人物を支え続けている今の日本の自公政治では、日本の将来はない。滅びるだけだろう。いち早く、政権交代のない腐った国ニッポンから脱却することがこの国の蘇生、再生の第一歩である。

2009年1月8日木曜日

世界の知性は「テロ」の本質をどうみるか

◆N.チョムスキー(マサチューセッツ工科大学教授)

 米国、とりわけブッシュ政権の対外政策に痛烈な批判を浴びせ続けてきた世界の知性、マサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー教授は、米国をして世界最大の「ならずもの国家」と公言してはばからない。

 今年、80歳になるチョムスキー教授は、ベトナム戦争以来の米国の外交政策を痛烈に批判している。 
 いわゆる「9.11」以降、チョムスキーの史実に基づいた言論は海外はもとより米国内でも高い評価を得ている。ロックバンドU2のボーカル、ボノはチュムスキーを飽くなき反抗者と呼んでいる。闘う言語学者、それがノーム・チョムスキーである。 

  イラクとの「対テロ戦争」をめぐる米国の対外政策についてのインタビューにチョムスキーは、次のように明快に答えている。 

  第一に、「対テロ戦争」という言葉を使うにあたっては多大な注意が必要です。そもそもテロに対する戦争というものはあり得ません。

 論理的に不可能なのです。

 しかも、米国は世界最大のテロリスト国家です。

 ブッシュ政権で政策決定に係わっている人々は国際法廷でテロとして批判されてきた人々です。
 米国が拒否権を発動しなければ(このとき英国は棄権しています)、安保理でも同様の批判を受けていたはずの人々なのです。

 これらの人々が「対テロ戦争」を行うなどということはできません。問題外です。

 これらの人々は、25年前にもテロリズムに対する戦争を宣言しています。しかし、私たちはこれらの人々が何をしたかを知っています。

 中米諸国を破壊し、南部アフリカで150万人もの人々を殺害する手助けをしてきたのです。他の例もあげることができます。

 ですから「対テロ戦争」などというものはもともと存在しないのです。

 「テロリズムはどう定義するのか」というインタビューの質問に対し、チョムスキーは次のように答えている。

  テロとは他者が『われわれ(米国)』に対して行う行為であり、『われわれ(米国)』がどんなに残虐なことを他者に行っても、それは『防衛』や『テロ防止』と呼ばれるのである、と。

 以下は、チョムスキーがインタビューに答える形で話した「米国の対テロ戦争」と「米国のイラク攻撃」の全文である。長文ですがぜひ読んで欲しい。

  「対テロ戦争」:チョムスキー・インタビュー 2002年7月3日


◆イクバール・アフマド(思想家)

 チョムスキー教授の友人にイクバール・アフマド氏(Eqbal Ahmad)がいた。ノーム・チョムスキーやE.サイードの盟友でもあるそのイクバール・アフマドは「テロ」にどう言及しているのであろうか?

  アフマドは1999年11月にイスラマバードで病気でなくなっているが、彼は「9.11」が起る3年前の1998年、「テロリズム---彼らの、そして、わたくしたちの」と言う講演のなかで、テロリズムについて非常に示唆に富んだ話をしている。

 当時刊行されたイクバール・アフマド発言集「帝国との対決」(太田出版03-3359-626)、大橋洋一・河野真太郎・大貫隆史共訳)から以下に核心部分を引用する。

 まず第一の特徴的パターン。それはテロリストが入れ替わるということです。昨日のテロリストは今日の英雄であり、昨日の英雄が今日のテロリストになるというふうに。

 つねに流動してやまないイメージの世界において、わたしたちは何がテロリスムで、何がそうではないかを見分けるため、頭のなかをすっきり整理しておかなければなりません。

 さらにもっと重要なこととして、わたしたちは知っておかねばならないのです、何がテロリズムを引き起こす原因となるかについて、そしてテロリズムをいかにして止めさせるかについて。

 テロリズムに対する政府省庁の対応の第二のパターンは、その姿勢がいつもぐらついており、定義を避けてまわっていることです。

 わたしはテロリズムに関する文書、少なくとも20の公式文書を調べました。そのうちどれひとつとして、テロリズムの定義を提供していません。

 それらはすべてが、わたしたちの知性にはたらきかけるというよりは、感情を煽るために、いきりたってテロリズムを説明するだけです。

 代表例を紹介しましょう。

 1984年10月25日(米国の)国務長官のジヨージ・シュルツは・ニューヨーク市のパーク・アヴェニュー・シナゴーグで、テロリズムに関する長い演説をしました。

 それは国務省官報に7ぺージにわたってびっしり印刷されているのですが、そこにテロリズムに関する明白な定義はひとつもありません。その代わりに見出せるのは、つぎのような声明です。

 その一、「テロリズムとは、わたしたちがテロリズムと呼んでいる現代の野蛮行為である」。

 その二はさらにもっとさえています。「テロリズムとは、政治的暴力の一形態である」。

 その三、「テロリズムとは、西洋文明に対する脅威である」。

 その四、「テロリズムとは、西洋の道徳的諸価値に対する恫喝である」。

 こうした声明の効果が感情を煽ることでなくしてなんであろうか、これがまさに典型的な例なのです。

 政府省庁がテロリズムを定義しないのは、定義をすると、分析、把握、そして一貫性を保持するなんらかの規範の遵守などの努力をしなければならなくなるからです。

 以上がテロリズムヘの政府省庁の対応にみられる第二の特徴。

 第三の特徴は、明確な定義をしないまま、政府がグローバルな政策を履行するということです。

 彼らはテロリズムを定義しなくとも、それを、良き秩序への脅威、西洋文明の道徳的価値観への脅威、人類に対する脅威と呼べばいいのです。

 人類だの文明だの秩序だのを持ち出せば、テロリズムの世界規模での撲滅を呼びかけることができます。

 要約すれば、米国なり西洋が使うあらゆる暴力はテロリズムとは言わず、米国なり西洋が被る暴力はすべてテロとなるということである。

 これはチョムスキー教授の言説と共通している。すなわち 「テロとは他者が『われわれ(米国)』に対して行う行為であり、『われわれ(米国)』がどんなに残虐なことを他者に行っても『防衛』や『テロ防止』と呼ばれる」のである。

 ここに今日の米国やイスラエルの対テロ戦争や対大量破壊兵器戦争の大きな課題が集約される。

 米国やイスラエルが自分たちがいくら核兵器や大量破壊兵器をもち、使ってもそれは自由と民主主義を守る正義の戦いとなり、中南米、カリブ諸国にCIAや海兵隊を送り込み他国の政府を転覆したり、要人を殺傷しても、またイスラエルがパレスチナを攻撃しても、けっしてそれはテロとは言わないのである。

 イクバール・アフマドの経歴について イクバール・アフマド(Eqbal Ahmad)著作集について 

◆ウゴ・チャベス(ベネズエラ大統領)

 歯に衣着せず痛烈にブッシュ政権を批判するラテンアメリカの旗手、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領は、2006年9月、ニューヨークの国連本部で行った演説のなかで、ノーム・チョムスキー教授の著作を片手に、ブッシュ政権の脅威について次のように明快に語っている。

 私が悪魔と呼んだ紳士である大統領(ブッシュ大統領のこと)は、ここにのぼり(注:国連本部の演壇)、まるで彼が世界を所有しているかのように語りました。全くもって世界の所有者として...

 米国大統領が見渡すいかなる場所にも、彼はたえず過激派(テロリスト)を見ます。

 そして我が友よ――彼は貴方の色を見て、そこに過激派(テロリスト)がいる、と言います。

 ボリビアの大統領閣下のエボ・モラレスも、彼にとって過激派(テロリスト)に見えます。

 帝国主義者らは、至る所に過激派(テロリスト)を見るのです。

 もちろん、我々が過激派(テロリスト)であるなどということはありません。

 世界が目覚め始めている、ということです。

 至る所で目覚めています。そして人々は立ち上がり始めています。

 私の印象では、世界の独裁者は残りの人生を悪夢として過ごすでしょう。

 なぜなら、我々のように米国帝国主義に対抗する全ての者たちや平等や尊重、諸国の主権を叫ぶ者らは立ち上がっているのだから。

※ベネズエラ大統領チャベスの国連における大演説全文(2006年演説全容) ※チャベス大統領 国連演説全容(2005年演説全容) 日刊ベリタ ※ベネズエラ大統領チャベスの国連における大演説全文(2005年演説全容) 


◆佐藤清文(批評家)

 アラビア語で「情熱」や「闘魂」という意味の「ハマス」について報道されるとき、日本のメディアは「イスラム原理主義組織」と報道していますね?

 しかし、アルジャジーラを含め、アラブのメディアでは「パレスチナ抵抗軍」と報道するのが常です。

 実際、そう訳さないのは不正確なのです。ニュースは一つの報道だけでなく、多様な見方を意識していないとといけないのですが、日本の報道機関がアメリカ向きだというのはこういうところからもわかります。

 こういうところから直していかないと、本当の国際的な眼は養われませんね。

注)ハマースハマース、正式名称はイスラーム抵抗運動(Harakat al-Muq?wama al-Islamya)といい、各単語のアラビア文字の頭文字を取って(ハマース、アラビア語で「熱情」という意味)と通称される。 Wikipedia