2008年10月4日土曜日

神奈川県の禁煙条例を支持する! 青山貞一



 日本は先進国の中で一番喫煙者の割合が多い。男性の割合は減ってきたとは言え依然として先進諸国でダントツ、一番高い。他方、女性は20歳代など若い層を中心に喫煙率が増加している。

 喫煙問題で世界各国に勧告している世界保健機関(WHO)によれば、副流煙による影響が主流煙のそれよりも3倍も多いとしている。

 WHOは日本では毎年9万人以上が直接、間接的な喫煙の影響で死亡しているとしている。さらに喫煙に起因する肺ガンなどの疾病に関連する医療費も莫大なもの(額)となっているのはいうまでもない。

 医療費、健康保険制度の財政が一段と厳しくなっている折、国、自治体はまずは禁煙をあらゆる場所で徹底すべく尽力すべきである! 禁煙政策、施策を徹底せず、税制を増やすために価格だけを上げるのはおかしい。  いうまでもなく主流煙はもとより、副流煙には多環芳香族炭化水素(PAH)など発ガン物質が多数含まれている。

 いわゆる受動喫煙、すなわちタバコを吸わないひとへの喫煙の影響が吸っている人よりも大きいことから、健康増進法の第25条で受動喫煙の有害性が明確にされ、公共的な空間での喫煙を禁止する規定が盛り込まれた。

 具体的には健康増進法第25条において受動喫煙とは「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義され、同時に「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」こととされた。

 しかしながら、同法には何ら罰則がなく、せいぜい自治体が条例により禁煙地域を指定するなどの措置により駅前など部分的に禁煙ゾーンが指定されている。しかし、これらは全地域から見ればごく一部の地域である。

 そんななか、神奈川県の松沢知事は、以下の神奈川県公共的施設における禁煙条例(仮称)の制定に力を入れている。

 神奈川県では、受動喫煙の防止に向けた取組みをさらに進め、受動喫煙から県民の健康を守るため、「神奈川県公共的施設における禁煙条例(仮称)」の制定を検討しています。

 これまでに、受動喫煙に関する県民意識調査、施設調査の実施や、ふれあいミーティングや施設管理者等との意見交換を通じてさまざまな意見をいただくとともに、医療や法律の専門家等から構成される「神奈川県公共的施設における禁煙条例(仮称)検討委員会」を設置し、専門的な見地から条例の内容について検討いただいているところです。

 このたび、検討委員会での議論や県民・事業者からの意見等を踏まえ、別紙のとおり、条例についての基本的考え方[案]を作成し、第4回検討委員会においてご検討いただくこととしました。

 神奈川県条例の骨子案で「分煙」は次の条件となっている。

 ①喫煙区域と非喫煙区域とを仕切り等で分離する
 ②喫煙区域にたばこの煙が拡散する前に吸引して屋外に排出する
   ための屋外排気設備(換気扇等)を設ける 
 ③非喫煙区域から喫煙区域に向かう空気の流れ(0.2m/s以上)が
   生じるようにする

 この骨子暗に関連してつい最近、NHKのテレビで神奈川県の禁煙条例制定をめぐって、神奈川県と飲食店や宿屋・ホテル、パチンコ店などの経営者と議論している番組を見た。その番組では大部分の時間が飲食店や宿屋・ホテルなどの経営者が、もしこの条例が制定されると営業がつづけられなくなるなど、条例の制定がもたらす経済的影響に費やされていた。

 確かに小規模事業者の場合、県が想定している分煙措置を達成するための空間や資金がないため、結果として廃業に追い込まれる可能性がないとは言えない。

 しかし、健康増進法第25条の対象施設としてに規定されている、学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者のうち、施設の規模が小規模であるからといって、いつまでも禁煙どころか、苦肉の策である分煙措置に協力しないことは、由々しき問題である。

 なぜなら応用物理学的にいえば規模が小さく容積の小さな施設であればあるほど、施設内部で喫煙する者がいると、内部にいる者全体が高濃度の煙を吸わされるからである。その典型例が自動車の車内である。

 私の大学の研究室(青山ゼミ)には、毎年、デジタル粉塵計を用いて喫煙による影響を測定した上で卒業研究を書いている学生がいるが、彼女は今年は乗用車内でタバコを吸った場合の車内濃度をあらゆる角度から測定している。

 車内の大きさ、窓を開閉した、車速の違いなどによって車内濃度がどう変わるかなどを、実測値をもとに評価している。それをみると、やはり閉じられた狭い空間でタバコを吸うと、信じられないほどの高濃度となることが分かる。

 私たちはボストンで開催された国際ダイオキシン会議に喫煙によるダイオキシン摂取リスクに関する英論文をだした。17カ国の研究者から様々な質問や資料要求が寄せられた。この研究では、日本と米国で売られているタバコの煙に含まれるダイオキシン類の量を定量的に推定するものであり、ケント1mgが一番量が多いことも分かった。

 ところで、健康増進法の第25条の規定について言及すれば、同法の同条項に「罰則がない」ことを強調する者が多い。

 だが、それはあくまでも健康増進法なる行政法のなかに罰則がないだけであって、もし、継続的に受動喫煙の被害を受けているひとが喫煙者相手に民事で損害賠償訴訟、すなわち不法行為として喫煙者を訴えた場合、損害額の大小を別とすれば、喫煙者が敗訴する可能性が大である。

 となると、小規模であることを理由に、神奈川県の条例制定に反対するのはいかがなものか? テレビでは、禁煙にすると神奈川県内の旅館から他の県の旅館に客が逃げるといっている。もちろんそう言う客もいるだろうが、私見では完全禁煙であることで宿泊する客もいるだろう。

 いずれにせよ、発ガン性が明確となっている喫煙、しかも早期発見でも、その後10年間生きられる確率が約20%しかない、すなわちひとたび肺ガンになると治る可能性が低いのだ。

 その肺ガンの主原因である喫煙について、こともあろうか飲食店や旅館の経営者が、単に営業、すなわち営利だけの観点で禁煙条例に反対するのは不見識きわまりないと思えるがどうだろうか? 職業の自由、営業の自由の曲解であるとさえ思える。

 ちなみにタクシーはすでに完全禁煙化の方向に向かいつつある。

 なお、私が知事の政策顧問でいた長野県では、田中康夫氏在任中、県庁施設はすべて完全禁煙としていた。長野新幹線は全国に先駆けて全車両全面禁煙となった。ただし、県庁の全面禁煙は条例によるものではないため、知事退官後、村井知事は副知事等が喫煙者であったことから敷地内全面禁煙を廃止してしまった。

 これについては、「これまでの禁煙政策を踏みにじるものでしかない」として日本禁煙学会から以下のような声明が知事、副知事等に送られている。

 最近になって、日本学術会議は、「脱タバコ社会の実現に向けて」という要望を全国の大学に勧告している。

 と言うことで、「営業の自由」と「人間の生命」を比較考量するまでもなく、喫煙による影響、被害は甚大であり、神奈川県の試みは支持されるべきである。。これは先進諸国の状況を見れば一目瞭然である。

 神奈川県(知事)は、ぜひとも禁煙条例を全国に先駆け自信をもって制定してほしい。それが世界の大きな流れ、メインストリームである!

0 件のコメント: